Vägen för alla

スウェーデンで学んだこと、生活、色々。

家庭での性別役割分業がもたらす弊害

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先月のコースのテーマはArbete och Ekonomi 労働と経済でした。

カール・マルクス資本論ジェンダー視点とポストコロニアル視点で補完して、現代のグローバルな不平等を分析するという授業でした

マルクスやフェデリーチやウォーラーステインを語りだすと長くなるのでまた次の機会にするとして、この授業を通して、やっぱり

家庭における性別役割分業は変えていかないとダメだなと思いました。

 

まずは家庭で 料理掃除洗濯子育てとかこまごました家事は女の人がしたほうがイイよねっていう意識を変えていかないと、女性の賃金労働と無償の家事労働というダブルバインドはどんどん女性を苦しめるだけです。

ご飯を作ったり気持ちのいいお家を保つために掃除したり洗濯したりっていう技術は、男女関係なく全ての人が自分の生活を大事にする技術としてきちんと学んで身に着ける必修科目です。

 

勉強してて、今の日本社会を考えるのに役に立つなと思ったのは、Nancy Fraserナンシー・フレイザーが批判的に分析した新自由主義と第二波フェミニズムの思いがけない共同作業です。(日本語でとても分かりやすくまとめているのがKikuchi, 2019)

1985年以降の新自由主義経済下で、都市に住むミドルクラスの女性やエリート層の女性たちが社会進出して「成功」した一方で、安くて保障が少ない労働力=非正規雇用労働者が国家主導で生み出され、その安価な労働力として女性が”活躍”します

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Gender Equality Bureau Cabinet Office, (a))

これにより、もともと女性が多く賃金が安かった福祉分野でさらなる賃金の低下が引き起こされ、十分な公共サービスがない(減らない待機児童、子ども手当の削減)ために家庭での女性のケア負担が増加しました。

日本は北欧や英国フランスドイツと違って福祉国家っていうプロセスをすっとばして、子育てと介護を女性が担う福祉制度と男性が長時間一つの会社で働いて家族を養うモデルでもって経済成長してきました。

現在、夫の稼ぎだけで生活するモデルは崩れてきていてダブルインカム世帯が主流になってきています。

つまり、日本女性は、働くことと家庭のケア(夫や自分が次の日も働けるようにご飯を作ったり家事したり、未来の労働者である子どもを育てること)の二重負担がめちゃくちゃきつくなっています。(Oshio 2017, Miura2015)

それをデータでみると(Gender Equality Bureau Cabinet Office, (b))

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データは女性の労働市場参加が増えたにもかかわらず、家事労働と子育てを担うのは女性であり、男女別の家事労働時間にはおおきな差があることを示しています。

女性がどんどん働くようになっているのに、家庭内での家事と子育てに使う時間は女性のほうが依然として長いんですね

 

スウェーデンでも、女性のほうが家事育児をしている時間のほうが長いのが現状です。お金に余裕のある家庭では、ベビーシッターや家事代行サービスを雇っていまして(Andersson,2015, Eldén,2016)、スウェーデンだけでなくドイツやアメリカ、オランダ、イタリア、スペインなどでもこの傾向が見られます。(Salazar,2009)

ベビーシッターや家事代行サービスにケアを外注して何とかなるならそれでいいんじゃない?と思われるかもしれませんが、このケアを担うのは東南アジアやラテンアメリカからくる移民女性で、賃金は低く労働条件も悪いのです。結局、お金のある先進国の女性とお金のない開発途上国の女性の間で不平等がグローバルに再生産されています。

(Salazar,2009, Kvist,2010)

 

日本に話を戻すと、

日本では家事や子育てといったケアを女性が担うため、もしくは各種控除をうけるために、女性は仕事をやめたり時短で働いたりパートタイムで働きます。

つまり、正社員で働く夫よりも妻の経済基盤がとても弱くなるわけです。

この構造は、離婚したシングルマザーの貧困を生み出します。

シングルマザーの貧困はそのままシングルマザー世帯の子どもたちの貧困につながります。(Miura)

本人の努力不足や選択の誤りで貧困に苦しむのではなくて、社会の構造が貧困を生みだす構造になっているのです。

 

家庭での性別役割分業は、ともすれば「それが日本の伝統だから、日本の文化だから」といって思考停止して肯定されます。

しかし、「文化」や「伝統」だからと家庭での性別役割分業を維持するのは、まったく時代に合ってませんし、生み出す弊害が大きすぎると思います。

家庭での性別役割分業をパートナー間できちんと分担する、ケアを社会がサポートするというのが、女性のダブルバインド(二重負担)、女性と子供の貧困、グローバルな格差の再生産を解決する一歩であり、私たちが今日今からでもできることなのです

 

Reference

Andersson, Katarina & Kvist, Elin (2015). The Neoliberal Turn and the Marketization of Care: The Transformation of Eldercare in Sweden. European Journal of Women's Studies 22(3): 274-287.

 

Eldén, S., & Anving, T. (2016). New Ways of Doing the ‘Good’ and Gender Equal Family: Parents Employing Nannies and Au Pairs in Sweden. Sociological Research Online, 21(4)

 

Gender Equality Bureau Cabinet Office. the fiscal 2019 government white paper on gender equality 男女共同参画白書 令和2年版.

https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/index.html

 

(a)年齢階級別非正規雇用労働者の割合の推移(男女別)

https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-02-06.html

 

(b) 家族類型から見た「家事・育児・介護」と「仕事」の現状

https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r02/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-00-16a.html

 

Kikuchi, Natsuno.2019. 日本のポストフェミニズム: 「女子力」とネオリベラリズム . Otsuki Shoten. Kindle Edition.

 

Kvist, Elin & Peterson, Elin (2010) What Has Gender Equality Got to Do with It?: An Analysis of Policy Debates Surrounding Domestic Services in the Welfare States of Spain and Sweden. Nora, (3), 185-203

 

Miura, Mari.2015.Neoliberal Motherhood: Contradictions of Women’s Empowerment Policy in Japan. Journal of Gender Studies, vol.18.

http://www2.igs.ocha.ac.jp/wp-content/uploads/2016/02/18-Miura.

 

Oshio, Mayumi.2017.女性の貧困 日本の現状と課題 Poverty among women:

Current state and issues in Japan.人間福祉学研究,第10巻第1号.

file:///C:/Users/toroy/Downloads/04_%E5%A4%A7%E5%A1%A9%E3%81%BE%E3%82%86%E3%81%BF.pdf

 

 

Salazar,Rhacel Parreñas. 2009. Inserting Feminism in Transnational Migration Studies.

https://aa.ecn.cz/img_upload/6334c0c7298d6b396d213ccd19be5999/RParrenas_InsertingFeminisminTransnationalMigrationStudies.pdf

 

The Japan Institute for Labour Policy and Training.2018.「母子家庭の貧困率は5割超え、13%が「ディープ・プア」世帯.

https://www.jil.go.jp/press/documents/20191017.pdf

 

Tomioka, Tadashi.2020.Vulnerability of Japanese-style Employment Practices:

The issue of Non-regular Employees and Enterprise-based Unions.Meiji University Academic Repository.Studies in commerce,43, 151-174.

-http://hdl.handle.net/10291/21270