世界人権の日 International Human Rights Dayと差別
12月10日は世界人権の日でした。
インスタには当日アップできましたがブログは間に合いませんでした！無念！
1948年12月10日の第3回国際連合総会で、現代人権法の礎となる
「世界人権宣言Universal Declaration of Human Rights」が
「すべての人民にとって達成すべき共通の基準」
として採択されました。(国際連合広報センター)
人権宣言の対訳は去年のブログ記事にのせてます。
世界人権の日に国連 人権宣言を考える - Vägen för alla
最近日本では、ナイキのCMが賛否両論をよんで炎上中ですが、皆さんはCM
をみて何を感じられたでしょうか。
CMは存在するけど語られない日本の差別問題を描きます。
ビデオでは肌の色や髪質、在日韓国朝鮮の名前をもっていること、チマチョゴリを着ている子どもたちが、他の生徒に「マジョリティの私たち」 と異なる普通じゃない存在として差別されいじめにあっている姿が描かれます。
世界人権の日になんで差別を考えるのか、と言うと、人権という概念と差別は密接な関係があるからです。
世界人権宣言は、第二次世界大戦で人類がおかした残虐行為、とくにナチス・ドイツによるホロコースト（大量虐殺・ジェノサイド）を真剣に反省し二度と繰り返さない。という強い覚悟のもとで生まれました。(Moyne. 2012)
たとえ肌の色、国、言葉、宗教、性別、性的志向が違っても他者は自分と同じ尊厳を持ち愛し愛される人間である ということをまるっと無視した思想が、人種差別の根っこにあります。
肌の色、国、言葉、宗教、民族、障がいの有無といった違いに絶対的な優劣をつけ、それでもって他者を差別し、「私たち」とは異なるもの、要らないもの、相応しくないものとして自分のコミュニティから排除していきました。
その最終的な最悪の帰結がナチスドイツによるホロコーストThe Holocaustです。
第二次大戦にいたるまでを簡単にふりかえると、
ヨーロッパ列強が世界を植民地化した19世紀から20世紀、人々は、人間を肌の色や生物学的特徴でカテゴリーわけし、そのカテゴリーに優劣をつけ、ヒエラルキーを作りました。
もちろんヨーロッパの白人、北アメリカの白人がヒエラルキーのトップです。
ヒエラルキーのトップにいる優れる者が劣った者を支配するのはOK、むしろ当然じゃん？
すぐれた文明であるヨーロッパが未開で野蛮なアフリカ・アジアの人々に素晴らしき文明を教えてあげようという有難迷惑ロジックで世界の分割と再編成が進んでいきました。（本音は領土拡大と資源獲得です）
この有難迷惑ロジックがいわゆる植民地主義Colonialismです。
差別の話に戻ります。
人種差別というとパッと思い浮かぶのは、肌の色といった持って生まれた特徴を生物学的に分類し、その分類に優劣をつけ差別する「生物学的人種差別Biological Racism」かと思います。
Old-racismオールド レイシズムと授業では呼んでいましたが、一般的には生物学的人種差別と言います。
この人種差別の最悪の帰結が、ホロコーストにおける特定のグループの排除で、ユダヤ人、ロマ人が組織的に排除されました。（その他犠牲になったグループは以下:ナチスの政敵、障碍者、性的マイノリティ、エホバの証人信者、カトリック司祭）
大戦後の1950年 UNESCOで、生物学的な人種というのは社会的に作られたものであるとして否定されました(Sharma:2015)
じゃあそれにともなって
生物学的人種差別は消えたのか
というと、手を変え品を変えしつこく社会に残っています。
今の人種差別はNeo-racism ネオ レイシズムとか文化‐人種差別 Culture Racism とか呼ばれていまして、生物学的な特徴に加えて文化的な特徴で人々をカテゴライズし、異物として差別します。
そしてこの差別はナショナリズムととても仲良しな関係にあります。
文化‐人種差別もナショナリズムも、自国の「純粋な」「伝統」文化や慣習、イデオロギーを強調し、それらを守らなければならないと人々を掻き立てます。(Sharma:2015)
ナイキCMを批判する人たちのコメントの一部には、このナショナリズムと差別の強いつながりが見え隠れしています。
文化が違うからという理由で、誰かを異物化することも差別の一つの形だということをちゃんと理解するのはとても重要です。
文化‐人種差別は生物学的人種差別より複雑なうえ、 感情的なナショナリズムや愛国主義と絡まると余計ややこしくなり厄介です。
たとえば、日本の差別や社会問題を批判した人に対して日本を批判するなんて日本を愛してないのか、と思考停止したりだとか、日本は日本人の国なのだから日本人以外が多少不利になるのは仕方ないといった言葉で差別を正当化する傾向があります。
繰り返しになりますが、
他者を自分と異なるものとして異物化し差別すること、これの究極的な結末を人類は第二次大戦で経験しました。
自分と同じ一人の人間、家族や友人や感情や思考や記憶やもろもろの大切なものを持った一人の尊厳ある人間が、いとも簡単に dehumanize 人間じゃないものとして扱われ殺されていきました。
他者を異物化し排除しようとすること=差別の例は、わざわざ70年以上も前にもどらなくても、私たちの日常のなかに残念ながらありふれています。
現代日本が取り組まないといけない差別を鋭く描き出したのが ナイキのCMと言えます。
わたしたち人間には、相手を他者化し異物化し排除する心の動きとそれを実行に移せる能力とテクノロジーがあります。
だからこそ、なんどもなんども繰り返し意識的に、
相手を他者化し異物化し排除する生物学的・文化的人種差別を止めよう、
一人ひとりの人間が尊厳を持って生きる権利があるのだ
と声をあげていかなければいけないのだと思います。
Reference
国際連合広報センター.世界人権宣言https://www.unic.or.jp/activities/international_observances/70th_humanrights/
ホロコースト百科事典.
https://encyclopedia.ushmm.org/content/ja/article/mosaic-of-victims-an-overview?parent=ja%2F11438
ダイヤモンドオンライン.窪田順生.2020.ナイキのCMをアンチ派が叩けば叩くほど、同社の「得」になる理由
https://diamond.jp/articles/-/256077
Amnesty International.世界人権宣言ってなんだろう
https://www.amnesty.or.jp/human-rights/what_is_human_rights/universal_declaration.html
NIKE.動かしつづける。自分を。未来を。The future isn't waiting.
Moyne, Samuel. 2012.Human Rights and the Uses of History. Cambridge, MA: Harvard University Press.
Sharma, Nandita.(2015), "Racism", in Anderson, Bridget & Vanessa Hughes (eds.),Citizenship and its others, Basingstoke, Hampshire : Palgrave Macmillan, pp. 98-118.
