資本主義の拡大と暴力、 消費者としてできること
1月のコースのテーマはArbete och Ekonomi 労働と経済でした。
カール・マルクスの資本論をジェンダー視点とポストコロニアル視点で補完して、現代のグローバルな不平等を分析するという授業内容。
先生はRebecca Selbergレベッカ・セールベリ先生
マルクスを読むのはさすがに時間が足りない、ということでマルクスの資本論は先生が授業で説明してくれました。わかりやすくてめっちゃ良かったです。先生がマルクスの授業をもっとしてくれるなら喜んで授業受けたいくらいです。
マルクスの資本論は資本社会において女性の労働がどれだけ重要な役割を担っているのかほとんど言及していないため、Gottfried(2015)やFederici(2004)にそって資本主義経済と女性の関係を補完していました。
ということでここからは私の授業の覚書とGottfriedとFedericiを簡単にまとめます。
(ページ数をきちんと記憶していないのでもう少し時間ができたときに追記します。)
今回は広く資本主義と暴力の関係についてです。
マルクスは、資本主義がどうやって、人々が自給自足する方法=生産手段(例えば畑を耕して自分の食べ物を作ったりして自分を自分で養う)を奪い、人々を賃金労働に依存させるシステムを作りだしたのかを描きます。
資本主義前、つまりお金で社会が動く貨幣経済が現れる前の社会では、人々は共有の土地から食べ物や燃料の材木を採ってきたり、作ったものを交換したりしてお金に頼らず生活していました。だいたい14世紀ころのお話です。
資本主義が現れる直前の社会=封建社会では、領民は領主のためにただ働きをする義務(領主の土地の農作物を収穫したり、城を補修したり)があり、領民にとってこれはとても大きな負担でした。
余った生産物を売ったりなんだりしてお金に余裕のある領民は、この労働をお金で解決するようになります。
金払うから労働は免除したって、お願い!ってな。
ここで、労働力はお金になるんだ!という認識が生まれます。
労働力を売り買いして、お金が生まれるシステムの登場です。
貨幣経済の登場とともに、給料をもらって働く賃金労働者が生まれたわけですね。
都市に住むお金がある人たちつまり商売人は、自分たちの富=資本を使ってより効率よく富を生み出す仕組みを拡大します。
効率よく富を生み出す仕組みを拡大、つまり資本主義の拡大は暴力を伴うもので、
たとえば初期の資本主義社会では織物工業の賃金労働者は雇い主の許可なくどこかにいったり(移動の自由の制限)、休みをもらったりできませんでした。
賃金の低さに対して労働時間は圧倒的に長く、労働者の人間的な生活?何それ?という状態。
労働者の人間性を無視して、いかに効率よく労働力を搾取するかが資本家の命題でした。(フェデリーチ、29)
日本でいうなら、時代は4世紀ほどずれますが女工哀史を読むとイメージがわきやすいかもですね。今のブラック企業の働き方そのまんまか。
15世紀以降、資本主義の暴力性はさらに残虐性を強めます。
コロンブスの”新大陸発見”以降加速したヨーロッパ諸国の植民地政策を思い出してください。
先住民を虐殺して土地を奪う(土地は富)、
より豊かになる=資本を拡大するために安い労働力を植民地で調達する(フェデリーチ、104)
先住民を強制労働させて掘り出した金銀をヨーロッパに輸出する、
先住民という労働力が足りなくなったからアフリカで黒人を捕まえてアメリカ大陸に連れてくる、
などは暴力なくしてはできません。
支配層(ヨーロッパの白人で資本を持っている男性)は暴力を様々な形で使ったわけです。
戦争、先住民の虐殺、植民地化、奴隷貿易、強制労働、長時間労働、魔女狩りなどなど。
この資本の拡大における暴力性は、現在でもつづいています。
日本の文脈で考えてみると
資本家側つまり企業が儲けてその儲けを配当として株主(資本を増やせるだけの富をすでに持っている人)に分配したり、高額な報酬を役員に分配して資本を拡大しています。
この資本の拡大を支えているのは、
アホみたいに長い労働時間、
その長時間労働のためにワンオペ育児をせざるを得ない女性たち、
厚生年金といった社会保障で守られないおおぜいの非正規雇用(契約社員、派遣社員、パートタイマー、アルバイト。多くは女性です。)、
技能実習生という名の移民労働者の搾取です。
スウェーデンだと、
女性の移民がケアとくに高齢者をケアするケアワーカー、准看護師、准保育士、ベビーシッターとして、男性の移民が建設労働者、配達員、レストランのキッチンとして低賃金で働いています。
福祉国家の福祉の根幹を移民がその安い労働力でもって支える社会、と言えるでしょう。
今度はグローバルな視点から。
安いファスト・ファッションの服はバングラディシュの労働者とくに女性労働者を安く使い、汚染水を垂れ流して環境を破壊しています。
イケアの家具はどうでしょう?
あの安い家具を作るための木材はどこから?
安く手に入るジェネリック医薬品のその安さの秘密は?
The Global North北半球の豊かな国々(アメリカ、ヨーロッパ、日本。最近は中国も参戦中)が作り上げたグローバル・サプライチェーンにより、日本やスウェーデンに住むわたしたちは毎朝コーヒーをのめて自分の国では生産できない果物を食べ、流行にあわせた服を着ます。
それらの原材料が生産されたり組み立てられたりする地域は、元植民地が多く存在する南半球The Global South(南アメリカ、アフリカ、インド、東南アジア。エネルギーは中東)に集中しています。
そこで働く労働者の賃金は低く、労働環境は悪く、工場排水による環境汚染はそこで農業をする人たちの生産手段の破壊をもたらします。
資本主義の本質は富の拡大です。
資本主義が無制限に拡大すればするほど、持てる者はどんどん豊かに、持たざる者はどんどん奪われ、終いには私たちが住む地球すらも破壊してしまいます。
だから資本主義社会を根本的に変えよう!と言いたいところですが、この社会のすみずみにまで(私たちの考え方すら)資本主義が浸透しているし、なかなか難しい…
しかし私たちの日常生活で、資本主義の拡大とそれに伴う暴力を減らしていくことはできます。
例えば、
何かを買う時、値段が安いものをパッと買うのではなく、フェア・トレードのもの、売り上げがちゃんと生産国に住む人々に還元されるもの、環境に配慮したもの、自分の地元で生産されているものを選んでみる。
流行に合わせて服を使い捨てにするファストファッションでなく、何年も着れる服を買ったり、セカンドハンドを利用してみたり。
労働力の搾取と環境破壊でなりたつ低価格商品をどこどこ大量に売りまくるのは、企業側にとってとても美味しい経営方法です。
この経営方法に変化を促すことができるのが、上で例に挙げたような消費者の選択です。
大量生産の低価格商品よりも、環境に配慮して労働者や生産者にちゃんと利益が分配される商品のほうが売れるとわかれば企業は経営方法を変えるでしょう。
消費者がもつパワーは結構大きくて、このパワーと市民社会がうまく協力し合えばより大きな変化につなげられるのかなとこの可能性に期待大です。
参考
Federici, Silvia (2004).Caliban and the Witch. New York: Autonomedia. (272 s).
pdfはこちら→https://anacgalvis.files.wordpress.com/2016/01/caliban-and-the-witch.pdf
日本語版もあります。高いので図書館で探すといいかもです。
キャリバンと魔女
Gottfried, Heidi (2015).Gender, Work, and Economy: Unpacking the Global Economy.
堀 芳枝 2017 年
書評『キャリバンと魔女-資本主義に抗する女性の身体』シルヴィア・フェデリーチ(小田原琳・後藤あゆみ訳)以文社、
http://jaffe.fem.jp/j/wp-content/uploads/2017/09/8-hori.pdf
←要点をさくっと読むのにちょうどいいです