Vägen för alla

スウェーデンで学んだこと、生活、色々。

スウェーデンモデルに潜む不都合な事実

スウェーデンモデルに潜む不都合な事実というかスウェーデンの教育を理想化することに感じる違和感についてです。

 

読書会に参加していまして、10月31日はスウェーデンの教育について知るために

『 みんなの教育 スウェーデンの「人を育てる」国家戦略』 川崎一彦編著

を読みました。

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2017年~2018年にかけて書かれ全編にわたってかなりスウェーデンの教育にポジティブだなという印象です。スウェーデン教育が大事にしている主権者教育が実際にどんなふうに現場で行われているのか知れますし、2011年以降のスウェーデン教育トレンドについて知るにはいい本です。また、生涯にわたって学び続けることを価値あるものと認めている社会の在り方や子どもを子ども扱いするのではなく一人の自己ある人間として育む社会の在り方は今後の日本社会が目指す姿の一つかなと思いました。

 

個人主義、民主主義、反差別などスウェーデンの教育方針や理念自体は私も賛同します。実際、この理念を生活のすみずみに浸透させようという努力があるからこそ、スウェーデンは住みやすいのだと思います。

一方で、その理念が機能不全になっている現実があるのも事実で、この本ではそれについてあまり言及していなかったのでその事実を指摘したいと思います。

 

2015年以降の大量の難民受け入れにともない、これまで抱えてきた課題と不満が噴出し、スウェーデン社会は大きな社会変化の渦中にいます。

教育を含めた社会福祉制度や移民問題は2015年以前からある課題です。

簡単に振り返ると、1990年代に金融危機と経済後退に対応するため、社会民主党社会福祉に対するリソースを見直し削減しました。1991年に政権を担当した中道右派政権は、経済テコ入れを目指しネオリベラリズム経済政策をとりました。(㊟ネオリベラリズム経済政策は、小さい政府を志向し政府の社会福祉負担を抑え、民営化する。ちなみに日本も大体同じ時期にネオリベラル政策に舵を切っています。)

この時期に、移民を社会福祉の負担ととらえよりきびしい移民コントロールを求める意見が勢いを増し、移民と難民に対する権利の制限につながりました。(Sager:2017)

そこから2000年代のスウェーデンは、社会民主主義ではあるものの市場経済化がすすみ、交通や郵便事業、教育や介護分野での民営化と市場経済参加が顕著です。

社会民主主義の全盛期は20年以上も前に過ぎ去り、社会をどういう方向へ変えていけばいいのか試行錯誤しているときに2015年の大量難民受け入れを迎えます。

2015年以降のスウェーデンの課題は、スウェーデン大使が記者会見で言うようにどうやって新たにスウェーデン国民となった人たちを社会へ統合していくか、ということで(日本記者クラブ:2018)、この人たちが社会に参加できるようになるためには、まずスウェーデン語の教育や職業訓練、子どもの教育が必要でこれにはお金がかかります。が、教育分野の予算は削減されています

最近では2018年、多くの自治体で福祉予算の削減が見られ、2019年 には市町村の学校予算は高い割合で削減が見られます。 2020年の学校予算を読むと、地方自治体の政治家は削減率をさらに高めていることがわかります。(Dagens Samhälle:2020)

また、外国生まれの生徒が一気に増え授業についていけていない生徒が増加し、高校入学資格となる成績を取得できずに小中学校を卒業する子どもたちがいます。(㊟スウェーデン語を学ぶ授業も母国語を学ぶ授業もあります)

 – Nio av tio elever som lämnar grundskolan utan behörighet till gymnasiet har gått i en kommunal skola. Att vända denna resultatutveckling är svensk skolans verkliga utmaning och här behöver alla goda krafter bidra. Ska vi lyckas vända trenden och på allvar öka andelen elever som når behörighet till gymnasiet så handlar det främst om att lära av de framgångsrika, huvudmän som har fokus på styrning, ledning och ett systematiskt kvalitetsarbete, betonar Ulla Hamilton.

訳 高等学校入学資格なしに義務教育を卒業した生徒の10人に9人が自治体が運営する学校に通っています。 この傾向を転換することはスウェーデンの学校の真の課題であり、全力を尽くさねばなりません。 高等学校への入学資格を得る学生の割合を大幅に増やすためには、主にガバナンス、管理、体系的な質の高い仕事に成功した校長から学ぶことが重要です。(Friskolornas Riksförbundet:2020)


教育分野民営化にともない様々な私立学校ができ学校選びにさまざまな選択肢ができた一方で、新たに設立された私立学校の問題も指摘されています。

この本ではインターナショナルスクールInternationella Engelska Skolanがクリエイティブな私立学校として取り上げられていました。しかし、この学校が賛否両論であることはきちんと指摘すべきではないかと思います。

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(画像は公式HPからお借りしました)

Internationella Engelska Skolanは職業専門高校入学資格をちゃんと取らせてくれる学校としては、私立公立学校の中でトップ(Friskolornas Riksförbundet:2020:27)であり、保護者の間で人気があります。

一方で、

株式上場による利益を教員やスタッフに適切に分配していないつまり利益に反して職員の給料はあがってない、教員不足による校舎の閉鎖(Expressen:2020)、

成績をつける基準の不透明性(Aftonbladet:2018)

といった問題が指摘されています。

また、教員免許のない教師を講師やアシスタントとして雇用して人件費を抑える経営方法を批判する声もよく聞きます。



ここからは個人の雑感ですが、

移民難民向けのスウェーデン語学校SFI, Svenska som andra språkも問題が多いなと感じます。私自身2016年にスウェーデンへ来てから1年半スウェーデン語学校SFI, Svenska som andra språkに通いました。スウェーデン語学校SFI, Svenska som andra språkは半分市場化していて、授業を提供する企業は政府からの補助金がもらえます。

そのため、SFI, Svenska som andra språkの授業を長く提供してきた学校(ABFが代表的)と新規参入の学校、自治体の学校ではピンキリが激しいです

多くの日本人が好んで通うストックホルムにある学校ABF Sveavägenは、先生たちの教え方やクオリティ、返事の速さ、事務のスムーズさなどきちんとシステム化されていて良い学校でした。一方、Hermods, Jensenなどは 先生の入れ替わりが激しくキチンと授業を計画していなかったり、事務の返事が遅かったりとガッカリなクオリティでした。

さっさとスウェーデン語課程を終わらせるならばいいですが、きちんと学びたいならおすすめできません。

 

以上、つらつらスウェーデンの教育現場が実際はいろいろ問題に直面してて、理想的なスウェーデンの教育!という本だけではみえてこないこともありますよということを補足できたかなと思います。

課題があるのはどこの国も一緒です。

ま、もしスウェーデンの教育と日本の教育どっちを受けて育ちたいか選べるならスウェーデンの教育を選びますが。

 

 

Aftonbladet.2018.”Ny rapport: Engelska skolan i topp när det gäller glädjebetyg”,

https://www.aftonbladet.se/nyheter/samhalle/a/Rxw2qd/ny-rapport-engelska-skolan-i-topp-nar-det-galler-gladjebetyg (2020.11.04)

 

Dagens Samhälle.2020.”Ny friskola är vägen till högre kommunalskatt”.

https://www.dagenssamhalle.se/debatt/ny-friskola-ar-vagen-till-hogre-kommunalskatt-31419

(2020.11.01)

 

Expressen.2020.”Sände hem elever och skyllde på lärarbrist – tjänar miljoner”.

https://www.expressen.se/nyheter/skolan-stangde-och-skyllde-pa-lararbrist-tjanar-miljoner/

(2020.11.01)

 

Friskolornas Riksförbundet.2020.“Rapport: Därför misslyckas vissa skolhuvudmän medan andra lyckas”,

https://www.friskola.se/2020/06/11/rapport-darfor-misslyckas-vissa-skolhuvudman-medan-andra-lyckas/

(2020.11.01)

 

詳細なレポート→

Friskolornas Riksförbundet.2020.“Se skolans verkliga utmaningar Låt alla goda krafter bidra”

https://www.friskola.se/app/uploads/2020/06/se-skolans-verkliga-utmaningar_webb.pdf

(2020.11.01)

 

Sager, Maja & Mulinari, Diana (2017). Safety for whom? Exploring femo-nationalism and care-racism in Sweden. Women's Studies International Forum, https://doi.org/10.1016/j.wsif.2017.12.002  (2020.10.15)

 

日本記者クラブ.2018. “人生100年スウェーデンモデル”.ローバック駐日スウェーデン大使/宮本太郎中央大学教授,

https://www.youtube.com/watch?v=bqrKVs7BBks&list=WL&index=18 (2020.10.15)